準Vナインたちの今・・・②駒澤大学 中村大地さん

2009年夏の甲子園で準優勝した日本文理高校。9回2アウト、ランナーなしからの猛反撃・・・ナインの諦めない姿は、新潟県だけでなく全国の、そして野球ファンだけでなく多くの人の心に刻まれた。
あの決勝戦から4年の月日が経とうとしている。新潟県勢初の決勝進出、そして準優勝を成し遂げた選手たちは今、それぞれの進路で活躍している。あれから4年・・・準Vナインたちを取材した。(随時掲載)

東京・世田谷区上祖師谷にある駒澤大学硬式野球部グランド。現DeNAの中畑清監督や広島の野村謙二郎監督、阪神の新井貴浩選手など、数々の名プレーヤーが汗と涙を流した場所・・・日本文理高校でキャプテンを務めた中村大地さんは今、マネージャーの立場でこのグランドで汗を流している。4年生になり学生のトップの立場である「主務」を任されるようになった。

Q主務というのはどういう立場で、どんなお仕事をするのでしょう?
中村さん(以下中村)「学生のトップで、選手を含めて監督の次の立場です。主に日程の管理、オープン戦を相手校に頼んで試合を組んだり、キャンプなどの宿泊の手配、日程スケジュールの管理をやっています。駒澤大はOBの数が多く、たくさんの方と触れ合う場が多いので、自分にとっていい勉強になっています」


駒澤大学で主務を務める中村大地さん

柏崎市出身の中村さんは、2009年夏の甲子園では9番バッターながら5割8分8厘の高打率をマーク。キャプテンとしてチームを引っ張り、準優勝に大きく貢献した。高校卒業後は駒澤大学に進学した。

中村「準優勝してから、いろんな人に声をかけられるようになって、嬉しい気持ちもある一方、責任を持った行動をしないといけないというのが、ずっと自分の心の中にありました。大学に入ってからも1年目はそれなりに注目されていて、選手として試合にも出させてもらっていたのですが、結果が出なくて・・・正直レベルの差を感じました。チームに貢献できていないことで、僕自身はショックを受けて、どこかでやる気がなくなってしまっていた・・・野球部も辞めようかと悩んでいた1年生の秋に、当時の小椋正博監督から、『マネージャーをやってみないか』と言われて。僕もチームに貢献できるなら、マネージャーとして日本一のチームを作れるように頑張ろうという気持ちになりました」

中村さんは小学校、中学校、高校とずっとレギュラーとして活躍してきた。初めてマネージャーの立場になってみて、野球はたくさんの人に支えられてプレーできていたのだと改めて実感した。

中村「プレーヤーだった時は試合だけ、野球だけやってればいいという考えだったんですが、裏側の立場になって、野球をするにはいろんな人に手伝ってもらったり、支えてもらったりしているというのを直に感じることができる。僕自身も選手のサポートだったり、日程を組んだりという仕事があるので、マネージャーになって学んだことはたくさんあります。今までの歴代のマネージャーの方ともOB総会で会うと、『ものすごくやりがいがある。やり切った後にはその先が見えてくる』とずっと言われていて、今は正直、選手のスケジュール管理が大変なんですけど、多忙な日々を送っている中でも、一回り、二回り広い視野を得ることができていると思います」

試合中はベンチに入る。監督の隣に座り、スコアをつけながら戦況を見守る。時に大きな声を出し叱咤し、時に選手を励まし・・・。高校時代、キャプテンとしてチームの「コミュニケーション」を大切にしてきたという中村さん。主務の立場になった今も、最も気を付けているのがこのコミュニケーションだという。

中村「監督と選手のパイプ役のような感じなので、選手の話を聞きつつ、監督からもいろいろな相談をされるので・・・『あの選手は普段どう?』とか、『あの選手の気持ちは今どうなの?』とか聞かれるので、そういう時にすぐに答えられるよう、選手と常に会話をして『今調子どう?』とか、雑談なんですけど会話をするように心がけています。そうすると監督に聞かれた時も、『こいつはこういう状態なので調子は悪くないと思います。でも結果が出ていないんですけど』というふうに瞬時に言えるので、聞かれたことに対してすぐに答えられるように、準備、コミュニケーションを一番大事にしています」

最終学年として迎えるシーズンが始まった。現在、駒澤大学は東都大学野球連盟の1部に所属。「戦国・東都」と呼ばれるこのリーグで、2001年秋以来の優勝を目指す。

中村「主務、マネージャーになった時に宣言したのは、日本一のチームを僕が作ります、と。マネージャーになるからにはそういうチームにしますと監督には言ったので・・・ここ数年、駒澤大は優勝をしていないですし、伝統ある大学なので名門復活を目指したい。主務としてしっかりチームを支えて、選手が試合をやりやすい、野球に取り組みやすい環境を作って、ぜひ優勝・・・この2文字だけを目指して、この春と秋にやっていきたいと思います」
Q今後の将来的な目標は?
中村「高校の時にたくさんの人に応援をされて、いろんな人の支えがあって準優勝という結果を残せました。特に家族には柏崎出身でありながら新潟市に親元を離れて行かせてもらった。そういう支えてくれたたくさんの方々に恩返しをしたいと思っています。仕事先も新潟に帰れるところにしたいと思っていますし、いろんな方に笑顔になってもらえたら・・・そういう恩返しがしたいというのが一番です」

甲子園で選手として最高峰の舞台を経験し、大学では選手を支える立場を経験した中村さん。夢はいつか母校で指導者になることだという。
中村「自分を成長させてくれた人に恩返しできるような指導者になりたい・・・そこが僕の最終目標です」
しっかりとした口調で語る中村さんの表情は、4年間でさらに成長した“野球人”として輝いていた。

追:駒澤大学は東都大学1部・春のリーグ戦で2連勝と好スタートを切った。23日からは優勝への最初の山場・中央大学戦が控えている。

(取材・文・撮影/岡田浩人)


【大学野球】新潟大が関東学園大くだし2連勝

関甲新学生野球連盟2部は14日、春季リーグ戦の第2節をおこない、新潟大が4-3で関東学園大をくだし2連勝を飾った。これで新潟大の今季成績は2勝2敗のタイに。

昨秋の対戦では1-9、2-12のコールドで敗れた関東の強豪私学・関東学園大を相手に2連勝した新潟大。次戦は20日11:30から茨城大と対戦。場所は埼玉県本庄市民球場。

(文/岡田浩人)


【大学野球】新潟大が今季初勝利

関甲新学生野球連盟2部は13日、春季リーグ戦の第2節をおこない、新潟大が3-2で関東学園大をくだした。新潟大は今季初勝利。

新潟大は先週の開幕戦で松本大に2連敗も、強豪・関東学園大を相手に延長10回サヨナラ勝ち。14日も12:30から関東学園大と対戦。場所は茨城県の常磐大野球場。

(文/岡田浩人)


準Vナインたちの今・・・①杏林大学 切手孝太選手と高橋義人選手

2009年夏の甲子園で準優勝した日本文理高校。9回2アウト、ランナーなしからの猛反撃・・・ナインの諦めない姿は、新潟県だけでなく全国の、そして野球ファンだけでなく多くの人の心に刻まれた。
あの決勝戦から4年の月日が経とうとしている。新潟県勢初の決勝進出、そして準優勝を成し遂げた選手たちは今、それぞれの進路で活躍している。あれから4年・・・準Vナインたちを取材した。(今後、随時掲載)

JR八王子駅からバスで約30分。郊外の地に杏林大学の硬式野球部グランドはある。ここで、ひと際大きな声を出している選手がいた。4年生・切手孝太選手。日本文理高校でトップバッターを任され、決勝戦では9回2アウトから反撃の狼煙となるフォアボールを選んだ選手だ。切手選手は今、キャプテンとしてチームの中心となっている。

切手選手(以下切手)「新チームになった時に、監督からキャプテンを任せると言われて・・・自分でもやりたいなと思っていました。高校の時は副キャプテンで、キャプテンの大地(中村大地選手、現・駒澤大学)を支えるポジションでしたが、大学でキャプテンをやってみて、下級生をどれだけ上級生と同じ気持ちにできるか、一体感を出すのが大変ですが、今の下級生はついてきてくれるのでやりやすいです」

Qキャプテンとして“切手色”は出している?
切手「もともと高校の時から明るくやる方だったので、大学に入ってからも下級生の時から先輩にもはっきり言う方だったので、プレー中も存在感出すようにしています」


杏林大学4年生・切手孝太選手

キャプテンとしてチームをまとめる切手選手

杏林大学のグランドにはもう1人、日本文理高校出身の選手がいる。高橋義人選手。あの夏、甲子園で打率6割3分6厘、本塁打2本を放ったバッターだ。高橋選手は切手選手が入学した1年後、杏林大学に入学した。

高橋義人選手(以下高橋)「杏林大学は自由な雰囲気で練習も楽しくできる。キャプテンは孝太(切手選手)がなると思っていたので・・・今はみんなを引っ張っていってくれている存在です」


杏林大学3年生・高橋義人選手

2人がいる杏林大学は『東京新大学野球連盟』に所属する。創価大学や東京国際大学などNPBに選手を送り込む大学が名を連ね、杏林大学はこれらの大学と同じ1部に所属する。

Q大学野球の印象は?
切手「高校はトーナメントで負けたら終わり。でも大学はリーグ戦で1つ負けても、あと2つ勝てば勝ち点を取れる。次があって、気持ちを切り替えられるのが大学野球の面白いところです。対戦するピッチャーもレベルが高い。去年は創価大に小川泰弘投手(ドラフト2位でヤクルトに入団)がいたり、一昨年は東京国際大に伊藤和雄投手(現・阪神)がいたり・・・いいピッチャーが多いので、どうやって打つか考えるのが楽しい」
高橋「自分はいっぱいいっぱい、かな(笑)」
切手「でも、高校の時にたくさんいいピッチャーと対戦したので、あれがいい糧になっています。あんなにいいピッチャーと対戦したのだから大丈夫、と」
Q高校の時に対戦した中で一番いいピッチャーは誰?
切手「たぶん2人とも一緒だと思います。春の選抜で対戦した今村(清峰・今村猛投手・・・現・広島)。あれよりいいピッチャーは対戦したことがないです(高橋選手もうなずく)」


並んで打撃練習をする切手選手(左)と高橋選手

高校3年生の夏、甲子園の、あの決勝戦を経験した2人。9回2アウトからの反撃では、2人ともにボール球を見極め、フォアボールで出塁し、日本文理の“繋ぐ野球”を示した。

切手「そうですね、あの時はただがむしゃらにやっていて、何が何だかわからなかったんですけど、いざ冷静に見てみると、義人もそうですけど、よくあの時、あそこでボールを選べたなと・・・。あの場面、自分は1球もバットを振ってないんですよ。でも義人はあの場面で初球から振っているんですよ。よくあの場面で、2アウトの初球からフルスイングできるなと」
高橋「自分はあの時、調子が良かったので(笑)。初球から振っていけたんだと思います」


鋭い打球を飛ばす高橋義人選手

9回2アウトから5点を入れるという甲子園の歴史に残る追い上げ。今も語り継がれる試合を経験した2人は、大学生となった今、あの試合をどう感じているのだろうか。

切手「夏の甲子園の決勝戦というのは誰もが経験できるものじゃなくて、両チーム合わせて36人しかベンチに入れない。しかも、ああいう試合ができた・・・大学に入ってから、うまくいかなかった時やつらいことがあった時は、あの決勝戦のDVDを見ます。あれを見ると元気が出るし、頑張ろうと思う。あの経験は自分にとって一生、支えになると思います」
高橋「そうですね、今はやっぱりあの試合以上に、甲子園以上に緊張する試合は、大学のリーグ戦でもなかなかないと思うので。仲間で集まった時にあの時のDVDを見ると、やっぱり盛り上がりますね」

取材をおこなった日、杏林大学は翌日にオープン戦を控えていた。キャプテンの切手選手は、ナインにこう呼びかけた。「リードされても絶対に諦めないこと」。

切手「自分が身を持って経験したので・・・自分も正直言って『野球は9回2アウトから』って言葉だけだろ、と思っていたんですけど、自分があの経験をしてしまったので。本当に最後の27個目のアウトを取られるまでは諦めちゃいけない、何があるかわからない、って思うようになりました」
Q大学に入ってからも周囲の見方は違った?
切手「試合のスタメン発表で高校名を言われるので・・・自分は苗字が珍しいじゃないですか。試合中に守っていてランナーが来ると『準優勝した時の切手さんですよね?テレビ見てました』と言われたり、準優勝メンバーだという目で見られるので・・・そこでオドオドしても仕方ないので。それを逆に自信に変えているというか、あの試合は一生、自分についてまわると思うので」
高橋「自分はそういうのをプレッシャーに感じてしまうので・・・。しっかり打ちたいなとは思っています」


切手選手の背には日本文理高校の“部訓”が…

杏林大学は去年、春のリーグ戦は3位、秋は5位だった。切手選手は秋には遊撃手部門でベストナインに選ばれている。ことしは杏林大学初となる『リーグ優勝』を目指す。

切手「監督からもコーチからも、ことし全国に行けなかったらこの先もないと言われるくらい、本当にいい選手がそろっているので、何とか春1位になって、杏林大学の歴史を変えたいと思っています。個人としての目標は特にないです。チームが勝てるなら、バントでもフォアボールでも何でもいいので、優勝するためにチームのコマになりたいです」
高橋「自分は3年生ですが、野球部員としては最後の年になるので。優勝を狙える代だと期待されていて。去年の秋は上位打線を任されていたんですけど、全然チャンスで打てず役割を果たせなかったので、今シーズンは得点圏で打ちたいと思っています」


切手孝太選手(左)と高橋義人選手

春のリーグ戦で優勝すれば、6月の『大学野球選手権』に出場できる。そこで日本文理のメンバーたちと“再会”するのが目標だ。
そして、2人とも大学卒業後は「新潟で就職したい」と口をそろえる。自分たちを成長させてくれた新潟で、恩返しをしたいと考えている。

切手「自分は県外(東京都新宿区)出身で、新潟に行って日本文理に入って、甲子園の時も新潟の方に温かく応援してもらって、あれだけの結果を残せたと思うので、卒業したら、新潟県の人たちのために働きたいなと思っています」
高橋「僕は孝太より1年遅くなるんですけど、自分も新潟で働こう、新潟のために働こうと思っているので。野球はたぶん軟式になるかな。草野球や何かの形で続けていけたらいいなと思っています」

杏林大学の春季リーグ戦の開幕戦は4月3日、3季連続優勝中の創価大学が初戦の相手だ。“諦めない野球”を体現する2人の、ラストイヤーが始まる。

(取材・撮影・文/岡田浩人)


【大学野球】東北福祉大1年・波多野陽介投手 オープン戦で登板重ねる

日本文理高校2年生の時に春夏連続甲子園出場を果たし、今春卒業した波多野陽介投手が東北福祉大学に進学。初の大学キャンプを経て、体が一回り大きくなった波多野投手は新1年生ながら中継ぎ、抑えとしてオープン戦での登板を重ねている。
2013029明治大×東北福祉大⑥
明治大学とのオープン戦に登板した波多野投手

波多野投手は高校2年春の選抜甲子園で140キロ台中盤の重い直球を投げ込み、注目を集めた。2年夏にも甲子園に出場し、初戦で優勝した日大三高に敗れたものの、序盤は日大三高打線を抑える力のこもった投球を見せた。同学年の田村勇磨投手(現・新潟アルビレックスBC)とともに、ダブルエースとして活躍したが、3年夏は県大会4回戦で敗退し、甲子園出場はならなかった。

20120602文理・波多野
日本文理高時代の波多野投手

「高校3年生の時に甲子園に出れず悔しかった。大学では日本一なりたい」との決意で、今春、東北福祉大学に進学した波多野投手。新1年生ながらオープン戦で中継ぎや抑えとして抜擢され、既に10試合以上の登板を重ねている。3月29日には明治大学とのオープン戦で1対1の同点で迎えた9回裏に登板。明治大の3番打者・高山俊選手(日大三高出身)に右前ヒットを許し、四球などで満塁のピンチを招くと、最後は内野安打でサヨナラ負けを喫した。しかし山路哲生監督は「球に力がある。制球力などまだまだの部分はあるが、1年生のうちから経験を積ませたい」と期待を寄せる。

20130329明治大×東北福祉大⑤
ブルペンで投げ込む波多野投手

波多野投手は「大学野球はやはりレベルが高く、高校時代には打ち取れていた直球やスライダーも簡単に打ち返されてしまう。まだまだ勝負強さが足りない」と反省も、「しっかり練習して、将来的には先発完投型の投手を目指したい。目標はNPB入り」と前を見据えた。

(取材・文・撮影/岡田浩人)