【高校野球】クールな男が見せた“熱さ” 失敗生かして成長 鎌倉航捕手 

野球の神様は日本文理のキャッチャー鎌倉航に甲子園という舞台で“宿題の解答”を次々と要求した。そして鎌倉は見事に満点の解答を出した。

原点の試合で学んだ「大量失点のイニングを作らない」

初回、いきなり1つの解答を要求された。エース飯塚悟史が不安定な立ち上がりを見せ、大分打線にいきなり連打で先制されてしまう。まだ1アウトも取れていない中での失点だった。「1年生の時の自分だったら、たぶんあそこから崩れていたと思います」・・・鎌倉は2年前の、ある試合を思い出していた。

一昨年秋、飯塚-鎌倉という1年生ながら強力なバッテリーを擁し、選抜大会の有力候補に挙げられていた日本文理は、地元ハードオフ・エコスタジアムで松商学園(長野)を迎えて北信越大会1回戦に臨んだ。「普通に勝って甲子園に行けるものだと思っていた」と考えていた鎌倉。だがケガのために本来の球威を欠いた飯塚が初回から失点を重ねる。「周りが見えなくなりパニックになってしまった」という鎌倉は、自身もホームベースを空けるという痛恨のミスから追加点を与えてしまう。初回に4点、3回に5点、4回に4点、5回に2点・・・計15失点。「気がついた時には試合が終わっていた」。0-15という屈辱の大差で5回コールド負け。「未熟だった。恥ずかしかった。あの試合が高校野球の原点でした」と振り返る。それ以降、鎌倉は「大量失点のイニングを作らない」ということを自らの課題としてきた。飯塚の変調を感じるとすぐにマウンドへ。一呼吸置いて落ち着かせることを心掛けた。どんな時も冷静に試合を運ぶ意識を頭から離さないようにしている。

12日の大分戦。初回に連打でいきなり1点を失った場面でも、鎌倉は冷静だった。マウンドで飯塚に声を掛け一呼吸置くと、自らの強肩で二盗を阻止。「あれで気持ちが楽になりました」。1年秋とは違い、失点を最少で抑えた。「あそこで周りを見ながら間合いを取りながら何とか踏ん張ることができました。あの試合の反省を生かすことができたと思います」。

キャッチボールから見直し、躊躇なくストライクの送球

鎌倉が受けた2つ目の宿題は今春の選抜大会1回戦の豊川(愛知)戦。1-0とリードして迎えた9回裏2死。バックホームのボールを受けると3塁走者が飛び出したのが見えた。「刺せる」・・・そう判断した鎌倉は三塁手へボールを投げた。が、ボールは大きく逸れ、同点に追いつかれた。試合は延長戦の末、3-4でサヨナラ負け。「走者が飛び出したのを見て刺せると思った」という鎌倉は試合後、下を向いた。

選抜以後、キャッチボールから自分の動きを見つめ直した。「ステップを踏んで、相手の胸にしっかり投げることと、体重移動をしっかりしてやることを意識しました」。

大分戦では初回の二盗阻止のほか、5回にはリードの大きい一塁走者を矢のような牽制でアウトにした。さらに7回には二塁手からの一塁悪送球をバックアップでカバー。二塁を狙った打者走者を“ストライク送球”でアウトにした。いずれも鎌倉の送球に迷いはなかった。「しっかり投げることができたのは自分が春から課題としてやってきたことができた結果」と話す。

クールな男が見せた“熱い”プレー

鎌倉は自らを「熱くなれない性格」だと分析する。今夏の新潟大会では小太刀緒飛の逆転サヨナラホームランでチームは甲子園出場を決めた。苦しい試合展開からの劇的な結末に周囲の仲間が涙を流す中、「周りを見たらみんな泣いているから、泣かなきゃマズイかなと思ったんですけど、涙が出なかったんです」と笑う。長年キャッチャーを務めてきたためにか、少し引いて物事を見る姿勢が体に染みついている。なかなか自分の『素』を表に出さないため、「一匹オオカミ的なところがある」と大井道夫監督が評するほどだ。

そんな鎌倉が大分戦で一瞬だけ、素を見せた。

7回、先頭打者として大分のエース佐野の直球をとらえ、右中間に二塁打を放った。「前の打席は三振でしたが、相手に6球投げさせることができた。その中でしっかりボールを見ることができて、次の打席では行ける、と思えました。ファーストストライクの直球に張っていました」という鎌倉の計算の一打だった。

そして次打者の飯塚の当たりはセカンドとセンターの間に飛んだ。判断が難しい打球だったが、鎌倉は「詰まっていたので間に落ちると思った」と素早く二塁からスタートを切った。サードコーチャーが腕を回すのを見て、全力で三塁ベースを蹴った。そしてホームへヘッドスライディング。1点を勝ち越した。

「ヘッドスライディングは小学生の時以来でした。何が何でも1点を取りたかったので。走っていたらちょうど真横にボールが来るのが見えた。気がついたら頭から滑り込んでいました。今考えると恥ずかしいです。そんなに頭から滑り込むようなタイミングでもなかったので」

照れ笑いする鎌倉。胸から膝まで土で真っ黒になったユニフォーム・・・いつもクールな鎌倉がその瞬間熱くなり、素を見せた証拠だった。「あの瞬間だけですよ。あとは普通にしていました(笑)」。

「鎌倉さんが気持ちの入ったヘッドスライディングで生還したので、自分も飯塚さんに1点でも多くプレゼントしたい気持ちだった」と話したのは2年の星兼太。直後にダメ押しとなるツーランホームランを放った。

鎌倉は振り返る。「試合が終わった瞬間は、『よっしゃー』というよりは『やっと終わったー』という感じでした(笑)。ようやく勝てたと思いました」

1年生の時から「文理にいれば行けるんだろうな」と思っていた甲子園。1年秋の0-15での敗北。春の選抜で自らの悪送球からこぼれ落ちた勝利。積み重ねてきた試練は、最後の夏の甲子園初戦でまるでテストのように凝縮されていた。そしてその試練を鎌倉は見事にクリアした。

「今までできなかったことができた試合。松商戦での課題が初回のピンチで出てきて・・・。春は追いつかれた後に逆転されましたが、昨日は反省がしっかり生きてその後はゼロで抑えられた。そして自分も、春は悪送球だったが昨日はしっかり投げられた・・・そういう面では自分が課題としてやってきたことが試合に生きたんじゃないかなと思います」

次の試合相手は愛知の東邦。話題の1年生投手がいるチームだ。「準優勝した先輩も愛知に負けて、自分たちも春の選抜で愛知に負けた・・・でも自分たちも練習を積み重ねてきているので、自信を持って思い切りプレーしたい。3年生として、1年生投手に負けるわけにはいかないので」。3年間の高校野球で成長した鎌倉は、その姿を再びプレーで見せるつもりだ。

(取材・撮影・文/岡田浩人)


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