【高校野球】成長を見せる春 伝統校“復活”を託された左腕

「第138回北信越高校野球・新潟県大会(春季県大会)」が28日に開幕する。昨秋の県大会から冬のトレーニング期間を経て、7か月余ぶりとなる公式戦で、高校生たちはどんな成長ぶりを見せてくれるのか。今夏は「第100回」となる選手権大会を控え、その前哨戦とも言える「春」の各校の戦いぶりが注目される。ここでは甲子園出場経験のある伝統校で、復活を託された左腕2人を紹介する。


◎完投できるスタミナに自信 新潟南・上野太幹◎
身長179センチ。手足が長く、大きなフォームから内と外に制球よく投げ込む。直球の最速は120キロ台後半だが手元で伸びてくる。カーブやチェンジアップといった変化球の制球もいい。齊藤貴教監督が「秋までは80球を超えると別人のように球威が落ちたが、今春の練習試合では終盤でも球速が落ちなくなり、ほとんど完投している」とその成長ぶりに目を細める。

新潟南の上野太幹(3年) 冬のトレーニングで完投能力を身につけた

新潟市秋葉区の出身。進路を漠然と考えていた中3の時、齊藤監督がその素質にほれ込んだ。新潟南への進学を希望すると、連日図書館に通って「猛勉強した」。伝統校のユニフォームに袖を通し、1年秋から公式戦経験を積んだ。ただ、なかなか勝利に手が届かなかった。

転機は昨夏の1回戦・六日町戦。序盤のリードを守れず、中盤に逆転されて交代。チームは延長戦の末に敗れた。「先発を任されたのに勝てずに悔しかった」。冬はスタミナをつけるため、20メートルダッシュを多い日は50本繰り返した。下半身が安定し、スタミナも制球も向上した。OBで社会人野球のバイタルネットで長く監督を続けた三富一彦さんが臨時コーチとして指導。「技術だけでなく精神面でも大きなアドバイスをもらった」(齊藤監督)という効果が春の練習試合で表れた。千葉・拓大紅陵との練習試合でも要所を締め、守備の失策などで3失点はしたが、「自分の思うような投球ができた」と自信をつけた。齊藤監督は「大黒柱になった。上野でダメなら仕方がない、という雰囲気がチームに出てきた」とエースの成長ぶりを感じている。

1984年夏の甲子園で2勝を挙げてべスト8に進出した伝統校も、昨年は春夏秋と公式戦での勝ち星がなかった。28日の1回戦の相手は昨夏ベスト8の東京学館新潟。勝てばシード校の新潟明訓が待っている。「1回戦から強豪が相手だが、倒さなければ上に行けない。先輩たちの借りを返すためにも勝ちたい」と上野。新潟南OBでもある齊藤監督は「1つずつ勝って、少しでも夏へプラスとなる経験をさせたい」と伝統校復活の第一歩を刻む「春」を誓っている。


◎ケガから復活した2年生エース 長岡商・目黒宏也◎
セットポジションから足が挙がった瞬間、一度打者から目を切り、“タメ”を作る。「練習試合で対戦した相手校の監督から『タイミングが取りづらい』と言われる」と佐藤忠行監督。2年生ながらこの春、伝統校の背番号「1」を背負う。目黒は「うれしかったが、責任も感じた。3年生の気持ちも背負って投げたい」と意気込んでいる。

長岡商の目黒宏也(2年) ケガを経て、打たせて取る投球術に磨きがかかった

長岡市栃尾地区・秋葉中学の出身。身長171センチと小柄ながら、センス溢れる投球を見た佐藤監督が声を掛けたのが進学のきっかけだった。昨夏は1年生ながらベンチ入りする予定だった。しかし大会直前の練習試合で投手ライナーを右足すねに受け骨折。松葉杖で大会を迎えることとなった。

その夏の大会で目黒が目にしたのが、中学時代から「意識していた選手」という長岡・中野志颯が1年生ながら投打に活躍する姿だった。「中3の市内大会で栖吉中学と対戦し、2人で投げ合って1対3で負けた。その選手が1年夏から活躍している一方で、自分はケガをして試合にも出られず悔しかった」。ケガが癒えた昨秋の県大会では初戦で長岡工相手に先発し、中盤まで好投するも敗れた。

この冬はフォームを改造。セットポジションに変え、「テンポよく投げることができ、バランスがとりやすくなった」と手応えを感じている。スクワットや四股踏みを繰り返し、下半身や股関節を鍛えた。その結果、「以前よりもボールを下半身で投げている感覚が身についた」と語る。球速は120キロ台中盤だが、「球にキレがあり、緩急をつけて投げることができる。練習試合でも結果を残している」と佐藤監督。この春は目黒にエース番号を与えた。「3年生投手陣への奮起と、目黒へのエースの自覚を促して、お互いに刺激を入れたい」とその意図を話す。

長岡商が2度目の夏の甲子園出場を果たしたのは44年前のこと。1992年夏に長岡向陵の四番打者として甲子園出場を果たした佐藤監督はその年の生まれである。一昨年夏にベスト8入りした長岡商という伝統校も、この春の新入部員はわずか3人…少子化・野球離れの波をもろに受けている。復活を懸けた春、そして夏へ。目黒は「1つ1つの試合、1球1球を、気持ちを込めて丁寧に投げていきたい。勝ち上がって強いチームを対戦したい」と力を込めた。

(取材・撮影・文/岡田浩人)


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